N A T A R A J  I N T E R V I E W
【カタックダンサー 前田あつこさんへのインタビューです】

maeda
――6歳のころからカタックを始めたそうですね。

子ども心に、ダンサーが身体につける装飾などの美しさにひかれて習い始めたんです。
小学5年生の時には日本の舞踊団と一緒に始めてインドに渡り、現地の舞台を踏んだりもしました。
大学時代と会社勤めの間は離れていたんですが、何かが満ち足りなくて、サークルを組んでカタックをまた踊りはじめたら”もうこれしかない!”とピンとくるものがあり、日印両国より奨学金を得て、会社を辞めてインドへダンス留学、そして今日に至っています。

――カタックダンスについてお聞かせ下さい。

北インド全般を代表する古典舞踊で、インド4大古典舞踊の一つに挙げられていますね。

カタックには、他の古典舞踊にはない独自の魅力がありますが、それはその歴史的な背景にあるんです。
ヒンズーのお寺で、一般民衆に神話とその信仰を広めるために、カタカと呼ばれる語り部の人々が芝居や踊りとして行なっていたのがそもそもの始まりです。例えば、クリシュナ神の物語を、パントマイム風な踊りとして見せていたわけですね。踊り手も、もともとは男性でした。

その後、イスラム勢力の台頭で、ムガールの宮廷で踊られるようになって、踊りの要素も、イスラム特有の旋回やスピード感あるステップなどが取り入れられるようになったようです。

現在は純粋舞踊としての側面が強くなり、主に舞台芸術として人気を集めています。


――インド舞踊というと、足に鈴をつけて踊りますね?

カタックはつける鈴の数も多く、私のは101個。そしてその1個はグル(師)からもらいます。男性だと140個にもなります。鈴は「グングル」といって、もともとは蛇よけに使われていたと聞いた事があります。鈴の音でステップを強調するので、 伴奏とのかけ合いも楽しめます。

maeda
グングル。
真ちゅうでできていて、
手にしてみると
ずっしりとした
その重さに驚く
――独特の掛け声が入りますが……?

タブラ、シタールなどの生演奏で踊る時には、純粋舞踊の場合は、踊り手がリードして舞台を創りあげていきます。ヴォールという言葉で「ター・テイ・ター」というようにこれから踊る内容をお客様とミュージシャンに伝えてゆきます。するとタブラが、そのリズムを演奏し、これに乗って踊るのです。

――インドではよく観客もいっしょになって掛け声をかけていますね。

そうなんです!古典音楽や舞踊に精通した観客がいると、ダンサーがそのヴォールを口にしただけで、これから展開される内容がわかるので、その期待感から、客席から歓声がわき起こります(歌手がメインの持ち歌を、次はこの曲です、と紹介するようなものでしょうね)。しかもそのリズムを素晴らしい踊りと共に表現しようものなら、場内は”キャーヴァーハェ!アーハハアーハハ!(ブラボー!)”という興奮のどよめきに包まれ拍手が起こります。

――他に踊りのルールのようなものはありますか?

神に捧げる舞などでゆったりと始まり、次第にクライマックスに向かってテンポアップしていきます。そして最後にテハイといって”三本締め”のように、同じリズムが3回繰り返された後、パン!というタブラの音と共にシタール、ダンスも最後のポーズと音で締めくくります。息があってこそキマるものなので、ミュージシャンも気が抜けません。

カタックダンスは、ベースになる拍子を設定して、自由に展開できるので、その掛け合いの妙がわかると、さらに面白みが増します。
ジャズにも即興の要素がありますが、カタックはそれに加えてダンスの表現もあり、その複雑さがひとつの魅力です。
16拍子や10拍子など自由に設定しておどりますが、拍子はただリズムの基本になるだけでなくそれぞれ雰囲気があって、踊っていると本当にそのムードになってゆくから不思議です。

拍子にのって踊り上げられた最後、必ず1に戻るというルールがあるので、どうやってこのメロディの踊りが1に戻るかというようなスリルもあって、見た目以上に奥深い楽しみ方のできる踊りです。

――なるほど

ほんとに奥の深いダンスで、一度やったことがある人で、カタックのことが忘れられなくて……とまた教室に通われる方も結構いらっしゃいます。
カタックは2、3週間やればものになるようなダンスではなく、10年20年と長い年月をかけて取り組んでいくといったものですが、それでも、入りやすいように、今はかみくだいて簡単な形にして教えています。
なにしろとても魅力的なダンスなので、一人でも多くの人にそのおもしろ味と楽しさを伝えていけるといいなと思っています。

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